
酸 素 欠 乏
大量斃死(全滅)に繋がる「貧酸素水塊」の形成メカニズム
〇大量斃死の要因別事例紹介 (アコヤガイ・タイラギ)
「酸素欠乏」アコヤガイ養殖における斃死原因と対策例
※夏場の斃死要因を「酸素欠乏」による衰弱と推察(収容器防汚・養殖密度適正化・漁場移動で対応)
(個別の養殖形態での経過減耗に拘らないで、斃死結果が全滅か否かで、斃死要因を推定。)
・貧酸素水塊の形成(鉛直攪拌の減少→底層での貧酸素水塊の形成→低層からの増厚と養殖垂下層への到達)
・水温上昇に 伴う海水中の溶存酸素量の減少(事前に高水温を想定した養殖適正密度・数量で対応)
過去の経験から、斃死要因が「高水温耐性」や「ウイルス感染」などの場合、最終的に生残する貝は無く「全滅」
となります。今夏は全滅した地区はないので、斃死減耗の要因は別にあると推察します。生残のある「衰弱減耗」で
あれば、高水温に伴う飼育環境内の「貧酸素」が減耗要因であると推定されます。
アコヤガイの心拍数は、水温上昇に伴い上昇します。更に水温上昇に伴う収容器内部の溶存酸素量減少に対応し生
存するため、網篭養殖などの閉鎖環境において、高水温による溶存酸素量の減少と高養殖密度(密植)が重なれば、
斃死減耗は高い生存活性の必要な「大型の健常な貝」から始まります。
※予測される環境変化に対応するために旧来の「後手」から、今後は「先手:攻め」への作業計画の改善が必須
毎年、秋になると夏場の斃死が問題化されますが、夏場の漁場環境の把握が出来ていない事が大きな問題であり、
旧来の何時死んだかも判らない粗放的な養殖形態から、計画生産が可能な管理養殖への移行が必須要件と思われま
す。貝に対してプラスになる事の手間を惜しまず、早い対処(分殖)や作業改善(作業時期の早期化や養殖密度の低
減)が重要です。今後、地球規模の気候変動で従来漁場の水温上昇が定例化するのであれば、漁場の季節的運用(移
動養殖:越夏・越冬)や新しい養殖技法(篭養殖:移動・貝数把握が容易)への変換も必要と考えます。
(収容網篭の限定容積内部における「収容貝数」と「貝の大きさ」により必要酸素量は変動)
・7月~8月の高水温時期 養殖密度
1気圧化における水温℃別の飽和飽和溶存酸素量(㎎/L)水温10℃における飽和溶存酸素量を100%
溶存酸素量は水温が5℃上昇すると約5%減少します。
養殖密度(収容器への貝の入数)は高水温下では生死を決定(酸欠)する斃死要因となります。
10℃:10.92(㎎/L)(100.0%)
15℃: 9.76(㎎/L)( 89.4%)
20℃: 8.84(㎎/L)( 80.9%)
25℃: 8.11(㎎/L)( 74.3%)
30℃: 7.53(㎎/L)( 68.9%)
35℃: 7.04(㎎/L)( 64.4%)
高水温化が予想される場合を想定した早期からの養殖密度の低減対応で生残率の大幅な改善が可能
養殖漁場における海水中の溶存酸素量変化の実態把握
アコヤ・タイラギ養殖からの知見(貧酸素水塊による酸欠斃死)
水深別の水温(℃)・溶存酸素量(㎎/L)・塩分濃度(‰)の観測結果と示準稚貝の斃死率
「漁場観測」 観測データの収集と時系列(日変動・週変動)変化の把握 出来ればリアルタイム
・水深別の水温(℃) 養殖器の垂下層だけでなく、表層・垂下層・海底に水温データロガーを設置(最低週一回収)
・溶存酸素量(㎎/L) 溶存酸素計のセンサーを延長し、表層・垂下層・海底の溶存酸素量の変化を把握
・塩分濃度(‰) 養殖器の垂下層だけでなく、表層・垂下層・海底に水温データロガーを設置(最低週一回収)
「生物指標」 変化の影響を受け易い稚貝を比較基準として、漁場別・垂下層別に貧酸素影響との相関を評価
・示準貝(同一貝種) 漁場別・垂下層別の「斃死動向」の観察(最低週一回収)
敢えて弱い稚貝を示準貝に使用する事で、大量斃死などの早期察知に使用可能
【貧酸素水塊】について


「 漁 場 特 性 」の 把 握 貧酸素水塊形成との関係
漠然とした経験ではなく、客観的な資料を基に、様々な気象変化に伴い自分の漁場がどの様に変化するのかを明確に
知る必要がある!(弱点と長所) 気象変化による個々の漁場変化の特性を把握し、水温変化に由来すると思われる部分
(高低の危険水温帯、急激な水温変化、貧酸素水塊の形成)の斃死を漁場特性と貝種特性によるマッチングで回避出来
ないかを考える。
従来の漁場の概念
従来 内湾性漁場(波静かで餌も多く珠も捲く)
近年 夏の高水温や冬の低水温が問題視されるようになり、外洋性漁場(波は荒く餌も少なく珠も捲かないが
斃死が少ない。)への越夏越冬の移動養殖が必要となってきた為、外洋性漁場を開拓し、使用してきた。
1.「内湾性漁場」「外洋性漁場」以外に、分類出来ないか?(各漁場の水温変化には特性が無いのか?)
深度別に水温変化を1時間毎の連続計測してみると漁場、深度毎に水温変化に特性が在ることが判る。
変化に由来すると思われる要因毎に分析すると以下の内容で分類出来る。
時期別 「気象」A-(水温と気温の差が大きく、気温の日較差の大きい時に以下の影響を受ける漁場)
「気象」B-(水温と気温の差が大きく、気温の日較差の小さい時に以下の影響を受ける漁場)
「気象」C-(水温と気温の差が小さく、気温の日較差の大きい時に以下の影響を受ける漁場)
「気象」D-(水温と気温の差が小さく、気温の日較差の小さい時に以下の影響を受ける漁場)
要因別 「日照」-(最高水温のピークが昼過ぎに1回)
「潮の干満」-(潮の干満に由来し最高水温のピークが1日に2回)
「降雨・積雪」-(局地・直接的に短期間で変化し易い)
「潮流」-(黒潮の蛇行により、高比重の外海水接岸の影響を受ける)
「風向」南型-(漁場が陸地と近くの北側が陸地で南側が開けていると南風で水温上昇)
「風向」北型-(漁場が陸地と近くの南側が陸地で北側に開いていると北風で水温下降)
「陸水」-(後背地の降雨・積雪により間接的に陸水・冷水の影響を長期間受ける)
2.分類の実例:夏場の高水温(気温≧水温)時の好天時期を分類
A.「深部まで日照影響型の水温変化をする漁場」開放系の漁場 開放日照型
B.「垂下層まで日照優先で深部は潮流影響型の水温変化をする漁場」 湾口潮流型
C.「表層のみ日照の影響型で垂下層以下は潮流影響型漁場」 湾奥干満型
漁場型分類 表層日格差 垂下層日格差 深吊層日格差 漁場
開放日照型 a-1. 大(日照) 大(日照) 大(日照) 島子 大江 浦田
a-2. 大(日照) 大(日照) 小(日照) 野釜 岡丸
湾口潮流型 b-1. 大(日照) 大(日照) 小(潮流) 阿漕
湾奥干満型 c-1. 大(日照) 小(干満) 大(干満) 皆割石
c-2. 小(日照) 大(干満) 大(干満) 若松
b-2. 大(日照) 小(日照) 小(干満) 田の下
3.異常斃死時期の漁場分析の例
時期=梅雨から夏にかけての水温上昇時
気象=高圧帯が長期間安定し梅雨前線の北上を妨げる
前兆=2週間位安定した晴天が続く
表層の日較差が非常に大きくなる(常に水温より気温の方が高い)=躍層の出現
水深毎の水温が明確となる=躍層の明確化
要因=1日の水温差が3℃以上になと貝に対する負担が大きくなる
=生息に不適な水温(生活水温を越えた27℃以上の警戒水温)に長期さらされる。
=台風等の風雨が水温の急上昇を促す
時期=夏から秋にかけての水温下降時
気象=高圧帯が長期間安定し秋雨前線の南下を妨げる
前兆=2週間位安定した晴天が続く
=水温の低下が殆どない(大気温度と海水温度が同じ)
=低層の日較差が小さくなる=躍層の出現
=水深毎の水温が明確となる=躍層の明確化
要因=海水の上下層の交換が殆ど行われない
=台風等の風雨による水温の急低下が海水の上下層の交換を促す
結果=貧酸素層が形成され易い
=交換が無ければ底の貧酸素層が次第に厚くなり貝の垂下層に達し悪影響を及ぼす。
=長期間交換が無い=風雨等での海水上下層の逆転現象があれば悪影響。
=短期間交換が無い=風雨等での海水上下層の逆転現象があれば好影響
4. 従来の常識と例外的な事実例
伊万里-阿漕
従来、深吊り層においては表層に比べ、水温変化が少なく安定していると言われ、夏場に深吊りにて高水温をか
わす等の考えが生まれていたが、漁場によっては表層よりも水温は高く、日格差も2℃以上もある漁場があること
から、深吊りは逆効果を生む漁場があることが判った。
島原-口之津、五島-大平
夏場、比較的高水温の影響を受けない外洋性の漁場とされてきたが、実際には日較差が大きく高水温の影響を受
けていた事が判った。
水温下降時、九州南部から黒潮の蛇行によって黒潮が遠のくと、低水温の外海水の接岸で漁場水温が急下昇する
事が判った。
冬場、比較的高水温の影響を受けない外洋性の漁場とされてきたが、九州南部に黒潮の蛇行が近づくと高水温の
外海水の接岸で漁場水温が急上昇する事が判った。
天草-島子
日較差、月較差共に少なく安定している為、夏冬共に安定した漁場であると言われてきたが、10年間の平均値と
年度別・月別水温を比較する事によって、年度変化は大きい漁場で年によっての差が大きい事が判った。